peer

~ナザレのイエス~

回想4

まったく意外な展開だった。

私も次男も、今の状況に辟易し、もう投げやりで自暴自棄の状態にあった。
今さら校長先生に会って話をすることなどあるのだろう?

そう思いながら戸惑っていると、おぞうたまが、
「せっかく校長先生と話ができる機会が持てるのだから、
会って、卒業の儀式としましょう。これは楽しいゲームです。」とおっしゃる。

とにかく何がなんだか分からないまま、何をどう話すのは決めていない。
名目は、推薦取り消しの異議申し立てとして出向くのだが、
私はそんなことはどうでもよかった。
授業も出ないのに、推薦できないのは当然と分かっている。

けれど、あの子がそんなに中学に行くのが苦痛ならば、もうこの機会をもって、
あの子の卒業にして終わりにしようという気持ちになった。

おぞうたまも同行してくださり、いったん家に戻り、次男の帰りを待った。

次男は以前、今回の不登校がきっかけで
二回程おぞうたまのセッションを受けたことがある。
 
なので、おぞうたまのことは知っている。

次男はおぞうたまがいるのを見て驚いてはいたが、
この提案をおぞうたまから聞き、面白そうだとすぐに乗った。

そして、3人で中学に出向き、校長先生にお会いした。
おぞうたまは「精神療法家」ということで同席してくださった。

校長先生におもむろに、あの『孤独』の絵を差し出す次男。

校長先生は「ほう」と見つめたが、すぐに「勉強をなぜするのか?」を話し出し、
次男に質問してくださった。

どうしてもやりたいことができた時に、
土壌が広ければ何でもできるからだよ。と話してくださった。
 
次男に、まだ勉強をやる気があるのかどうかを聞きだしてくださっているようで
ありがたかった。

次男は「学校の勉強は、必要が出てきたときにやればいいと思っている。」
と言う。
 
そこでおぞうたまが「もし、すごく尊敬する大学の教授ができて、
その授業を受けたいとなったら、大学に入るための勉強するの?」と問いかける。
 
次男は、少し考えた後で「別の道があると思う。僕なら教授の家に行く。」と応える。
 
校長先生は、この風変わりな受け答えをする次男の話しをよく聞いてくださり、
ご自身の経験も交えて話してくださった。
 
校長先生と次男の間の架け橋になってくださったおぞうたまが、
何か校長先生に聞きたいことはないかな?と次男に促してくださった。
 
しばらく黙っていた次男は、唐突にこう切り出した。
「この絵を観てどう思いますか?気持悪いでも何でもいいです。」

校長先生はしばらく見つめ、
「僕は絵心がないからな。。。でも苦しそうにしているように見える。
どういう絵なの?」そう聞いてくださった。

次男は「僕はどういう絵とか決めていません。
絵を観てどう思うかはそれぞれだと思っているので・・・」
そう応え、校長先生の感想が聞けたことを満足げにしていた。
 
おぞうたまが、私にも何か話しておくことはないですか?と促してくださった。
 
私も話しをさせていただいた。
「私たちは、なにも異議申し立てでこちらに伺ったのではありません。
先生方には、何日間か休んでいるのにも関わらず、
チャンスをくださったことに感謝しています。

今回のこの機会はこの子の卒業の意味で来させていただきました。
この子はこんな風なので、卒業式に出るかどうかも分かりませんので・・・」
 
そう話をしながら泣かないでいようと決めていたのに、
涙が止まらなくなってしまった。

すると、校長先生が「まぁまぁ、卒業のことは後ほどね。」とおっしゃった。
 
そして、
「中学で推薦するというのは、高校に3年間通うという前提、
勉強するという前提なんだよ。それができないのに、推薦してしまうと
契約違反ということになるから立場上できないんだ。
分かって欲しい。けれど、校長という立場ではなくなった時は、君を応援するよ。」
そうおっしゃってくださった。

おぞうたまは最後に次男に聞いてくださった。
 
「推薦はいいのかい?授業に出られない?」
次男は戸惑いながら「いい。。。です。授業には出ません。」そう言った。

これが最後にあの子が決めたことだった。


帰り、車の中で胸中複雑だった。

頑なに勉強することを拒むあの子。
せっかくおぞうたまが押してくださったのに。。。
校長先生の本心はどうなのだろう。。。
もしかしたら厄介払いしたぐらいに思っているのかもしれない。
 
おかしいぐらい疑心暗鬼になってしまい、どうしようもなかった。
 
おぞうたまは
「卒業にならなかったのが、いまひとつだったが、まぁ序章ってことで」
とおっしゃられる。

私には序章の意味がよく分からなかった。
もう次男は学校に行く気はこれで完全になくなったと思った。
 
推薦がもらえないことが決定した。。。勉強は全くしていない。
欠席日数はかさむばかり。。。
 
夜は悶々として、なかなか寝付くことができなかった。
 
私はこの翌朝、あまりのストレスに血尿が出て、
自律神経の乱れからか寝汗をかき、
気分は落ち込んでうつ状態に陥ってしまっていた。
 
 
 
しかし、まさにこの時、恵みがもたらされたのだった。