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~ナザレのイエス~

回想1

 
 
次男は、中学の授業を受けることを完全に拒否した。

念願だった美術部のある高校に進学することを当たり前のように希望していたのに、
1月を過ぎ、いよいよ受験まであと少しのところで、それは起きた。
昨年の11月頃から様子はおかしかったが、それでもなんとか学校に行けていた。
けれど、年が明けた頃から次第にポツポツと学校を休むようになっていた。

私は最初、受験がイヤで逃げているだけなんじゃないかと思っていた。

だから、常識をあの子に言って聞かせ続けた。
高校進学したかったんじゃないの?今頑張ろうよ、あと少しじゃない?
と言ったものの、あの子は頑なに拒んだ。

一時的なものかもしれないから、今は休ませてみようと、
休みたいのなら、学校に自分で電話しなさいと言ったら、

毎朝「学校に行きたくないので学校お休みでお願いします。。。」と電話している。

電話したら、サバサバしたもので、「ご飯なに?」と明るく話しかけてくる。

推薦の願書を学校側に出していたけれど、
こんな登校拒否では通らないだろうとあきらめていたら、
担任の先生から、学校側からまさかの恩寵で、高校3年間通い通すことを約束に、
これからの頑張りなさいという意味も込めて
推薦してくださることを言ってくださった。

長男(兄)や娘(姉)も、高校の良さをよく知っているので、
とにかく次男にも一度高校に行ってみて欲しいと思っていることを
本人には伝えてくれている。

一方、私は近頃の次男の様子を見ていたり、いろいろ話したりしているうちに、
この子は本当に中学校は必要ないのかもしれない。。。そう思うようになっていた。

でも中卒では、将来職探しも範囲が狭められるし、
高校で美術部に入ってどんどん好きな絵を描けばいし、
造形も習うことがきっと出来るんじゃないかと高校進学することを勧めた。


あとは、本人がやるかどうか決めるだけとなり、
前日に、娘と私が高校の良さを話しつくし、
本人も「やります。」と先生に告げたので、これでまた軌道に乗るかもと期待した。

しかし、次男はやると言ったすぐ後、
推薦ならこれから卒業まで授業にでなくてはいけないことを聞かされ、
間違った選択をしてしまったかもしれない。。。と深刻な顔をしていた。
私は当然、授業に出ることも考慮にいれたやりますの宣言だと思っていたので、
胸騒ぎがしていた。

私はそれから次男を学校に行くように催促し、
次男も自分でやると言った手前、学校に通い始めた。

私は肩の荷がおりたとばかりに安堵していたが、
家では相変わらず勉強は全くせず、絵を描いてばかりの日々。

朝はふてくされた暗い顔で遅刻ギリギリか、遅刻同然の時間に出かけ、
帰ってきても、体操服、学生服は汚らわしいからとすぐに脱いで着替え、
学生カバンは自分の部屋には持っていかず、リビングに置いたまま。

学校に行ってもやることがないから、ホント時間の無駄!と
文句しか言わなくなり、顔はみるみる暗くなっていた。




ある日、学年主任の先生が家にいらっしゃって心苦しそうにこうおっしゃった。

「学校では教室に入らず、学習室に籠もりっきりです。
これでは、推薦をとらせることはできない。
今日は次男君の気持ちを改めて聞かせてもらいにきました。」


次男は「正直に言うと、高校どうしようかなって思っている。」

推薦うんぬんより、高校をどうしようかと迷っているという。。。


先生に「それで卒業したらどうしたいんだ?」と聴かれ、
「働いて、お金溜めたらフランスに行く。」と。

「働く先は決めてあるのか?」と聴かれ、
「お兄ちゃんのバイト先とか、画廊とか」と。

私は「画廊なんて大学卒の人ばかりじゃないの?」と言うと、
ふ~んとばかりな態度で無言。


先生としては、
「次男が受けて合格したとして、やっぱり高校辞めるとか、
今のように授業に出ないようではね・・・。
次男が受かるということは不合格になった子の運命も変わってしまうことなんだよ。
今度19日に推薦の書類提出になるから、
それまでにお母さんと話し合って決めるように。」とおっしゃって帰られた。

その後話し合ったが、
次男は聞いているのか聞いていないのか死んだような目をしていた。


とにかく、卒業までの数十日でさえ、中学で授業を受けるのは耐えられない。

でも高校は美術部もあるし、どんなところか分からないから受験して、
このままの自分でも合格するようなら行ってみようと思っているけど、
本当に美術部だけのために高校行くってどうなんだろう?って思っている。

僕はあの受験をやるって決めた時、この中学に無駄だって思っても行くことを
高校受験するためにって懸けたんだ。
でも推薦にすることで、こんな風にいろいろ強制されるならもうイヤだ。
そう言い出した。


友だちと仲が悪いとかいじめじゃないのなら、
友だちに会いにいく楽しみで学校行くのはどうなの?と聞けば
「お母さんは、たまにもよおす尿意のためにトイレで座り続けられるの?」
と切り返してくる。


そして先生も含めて、自分のない人たちだと言い放ち、
「自分を知っている人を僕は探しているけど学校にはどこにもいない。
仲間を探している。いつか、僕のような人と一緒に創造活動をしていきたいんだ。」

中学はなんとか頑張って高校行けたら、
高校にそういう人がいるかもしれないじゃない?と言えば、
「僕みたいな人は高校なんて行かないから、いないと思うよ。」と。


最後の方で、私が真剣に
「あなたが言うことは分かるけど、社会で生きるのに、
何かの仮面を被っていた方がいい。
じゃないと、社会はもっと拘束してくるかもしれない。」と話すと、

「拘束って、例えば?」と聴くので、
「中卒ってことで、何か特別扱いを受けたり、働くにも限られる、
お金だって稼げないかもしれない。
稼ぎが少なければ、ローンだって組めないかもしれない。
それ以外にも目に見えないところで縛りがあるかもしれない。
高校生であることは楽だし、部活で絵だって描いていられる。
楽することは悪いことじゃない。働いたらそれだけで疲れちゃうし、
絵を描く気力も湧かなくなっちゃうかもしれない。」と話すと、

「どれも魅力はないね。自由に生きるのが何がいけない?」と言う。

「それは、あなただけの自由じゃない?」と言うと、
「自分だけの自由で何が悪い?他に誰かを救えと?」と。

この次男が言った「他に誰か救えと?」の言葉に絶句してしまい、
最後は「あなたがそれだけ言うのなら、
あなたの思うようにやってみればいい」と言って、
それで次男はそうするといった感じでスッと行ってしまった、


「他に誰か救えと?」まさかそんな言葉を言われるとは思ってもみなかった。

私が言いたかったのは、
自分だけの自由を追求していっても、社会は甘くないということだったのだけど、

私は突如、次男は私(母親)が次男にすがっていると思ったのだろうかと思い、
これ以上話すことを躊躇してしまった。

しばらくヒーリングして、頭は落ち着いたが胸のザワザワは収まることがなかった。
 
次の日、次男はふてくされて学校に行った。

昼3時ごろにまた学年主任の先生がいらっしゃったと娘がはなしてくれた。
私がいなかったのでまた来ますということで帰られたらしい。

次男はまだ学校にいる時間だったので、
次男が何かやらかした?とまたまた不安が再浮上し、ヒーリング。
そのまま少し眠る。

夕方学校に電話したが、誰も出られないので、
結局、なぜ来られたのか不明なまま。

次男に学校で何かあったの?と聴いても「別に」というだけで、
特に思い当たることもなさそうだった。

昨日に引き続き、今日もわざわざ来られるって、なんだろう。。。

昨晩はこのままだと次男は高校に行かないんじゃないか?と不安になったり、
一方で、あの子の言うように働いてお金溜めている方がずっといいんじゃないか?
と迷ったりしている自分がいた。

何度もイエスさまの導きに委ねようとヒーリングするが、
不安や迷いが強いと本当に難しい。

そんな時にも効く魔法の言葉が欲しいと思った。
とにかく、書いておくことは私にとって精神を落ち着かせることに繋がった。
 
書くこと、これも彼の肉を噛むことになるのでしょうか?
そうつぶやく私に、
おぞうたまは、書くことも彼の肉を噛むことです。とおっしゃってくださった。

グレースが最後の最後まで噛んで噛んでした様子を思い出す。

この世の私には何もできないけれど、噛むことは与えられている。
暴れる赤子を落とさないようにじっとホールドして、彼の肉を味おう。。

どうぞ最後は、彼にすべてを委ねられますように・・・